ニューヨーク・フィルハーモニック 来日公演 2014

今年最初の演奏会は,NYP
聴きたい曲の関係から,今回はあえてみなとみらいホールでの公演を選択しました.
が,これが裏目に出てしまい,当日は雪で交通機関が大変なことに.
あらかじめ遅れが少なそうな路線を選び,早めに出発したこともあって事なきを得ましたが,もうこういうのは勘弁してほしいなあ...

ラウス: 狂喜

2000年に作られた現代音楽.
冒頭の静かな導入部は風がそよぐような雰囲気が出ていたが,後半に進むにつれ運指がきつくなり,正直弾くのに精一杯のようだ.
ブラスセクションのカッチリしたサウンドは文句なしだが,木管のアンサンブルが少し甘い.
全体で鳴らすところも,パート間のバランスが少しズレていてしっくりこなかった.
演奏するには難しい曲だと思うけど,総じて練習不足感が...時間が無かったか?

ガーシュウィン: ラプソディ・イン・ブルー

この日一番期待していた曲.そして,期待を大きく上回る演奏だった.
前曲とは演奏の熟練度が全く異なり,まるで別団体のよう.
硬質で歯切れよいサウンドがタイミングをピタリと合わせて共鳴する.
さすがはアメリカのオケ.どのセクションも演奏し慣れていて,歌い方をよく分かっている.


ピアノは小曽根真さん.
ジャズピアノが中心の方らしいけど,クラシックとジャズの中間の世界に位置するような人なのかな.
ソロになると,リズムの揺らし方が完全にジャズの世界になり,軽妙に踊るような演奏が楽しめる.
ただ,音自体が軽めなので,オケが大音量で鳴らすとどうしても負けちゃうところも.
欲を言えばNYPを押し返すくらいの迫力が欲しい.


ラプソディ・イン・ブルーよりもさらに良かったのは前半のアンコール.
ピアニストが出演している場合,アンコールではピアノソロの小品を演奏するのが常なんだけど,この日はそんなもんじゃなかった.
ピアノに加えて,コントラバストロンボーン,テナーサックスが次々出てきて,セッションが始まってしまう.
ソロも上手いし息もぴったり.観衆のボルテージもこの日一番だったと言っていいでしょう.

チャイコフスキー: 交響曲第5番 ホ短調 op.64

この曲の持つ悲しく陰鬱な感じを感情を込めて表現できている.
アメリカのオーケストラなのに,ほのかにロシアっぽい(?).終盤の盛り上げ方もパワー感溢れるサウンドでお見事.
ただ,オーケストラの音色そのものは曲想に合っているのだが,全楽章通して一本調子に聞こえてしまうのと,NYPらしさがあんまり感じられないのが少々残念.
基本的には高水準の演奏が出来ているので,「らしさ」を感じさせる音作りや解釈に今後は期待.


あと細かなところを語ると,弦が以前聴いた2009年頃に比べてとても艶やかになった.
特にビオラとチェロが良くなったように思う.
逆に気になったのがホルン.
音が硬く,オーケストラ全体から見ても浮いていた.ホール特性の影響なのか,何でだろうね.

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 来日公演 2013

トップオケ最後の演奏会は,言わずと知れたベルリン・フィル
これまで何度も海外オケは聴いてきましたが,ベルリン・フィルの演奏会は初めて.
特に敬遠していた訳ではないのですが,チケットのあまりの高さにずーっと躊躇していました.
この先行くことは無いかもなと思っていましたが,2013年は有名オケがこぞって来日したため,
もうここでベルリン・フィルだけ外すわけにはいかないだろ,と勢いで買ってしまったのでした.

ブーレーズ: ノタシオン

この曲は初めて聴いた.おそらく,殆どの人はそうだと思う.
それでも,強烈なまでに巧いのがはっきりと分かってしまう.
現代音楽で不協和音だらけなのに,この不協和音がきちんと響く.これがどれだけ難しいことか.
鳴らしていても全くうるさく感じない.その上,弦も管も全ての音が1つに溶け合う.
2階席で聴いていたのだが,何でこんな音が出せるのか不思議に思うほど.
パート間の受け渡しも難曲なのに平気な顔して出来てしまう.
一番最後の楽章だけ少しだけ騒々しくなり,荒くなりかけたけど,気にするほどではないだろう.

ブルックナー: 交響曲 第7番 ホ長調 WAB107 (ハース版)

前曲に続き,本当に素晴らしい演奏.
減点法で見れば細かな問題はあるが,生演奏でここまでできるとは.
静謐なブルックナーの世界観をしっかり表現できているし,歌い込みのメリハリも効いている.
クレッシェンドに入る前の低音部含めた音の密度,エネルギー感がものすごく,いつまでも緊張感が持続する.
一番最後だけトランペットが少しミスしたっぽかった(?)けど,そこはご愛嬌.
演奏が終わるまで,拍手やブラボーのフライングもなく余韻も楽しめました.


最後に.
今回,初めてベルリン・フィルを聴いたのですが,他のオケからは頭一つ抜けていると思います.
それはそれで非常に喜ばしいことのなのですが,他のオケも負けずに頑張ってほしい.
方向性はそれぞれに個性があるので,ベルリン・フィルと同じことをする必要は全くないのですが,
これくらい完成度を高められるオケが他にもあるといいなあ.

ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 来日公演 2013

トップオケ第2弾はコンセルトヘボウ.今回行ってきたのは,東京文化会館です.
日程の関係でサントリーホールではなくこちらにしたのですが,これが思わぬ影響を及ぼすことになりました.

ワーヘナール: 序曲「じゃじゃ馬ならし」 op.25

今まで聴いたことのない曲だったので,事前にイメージがあまりできない状況だったのですが,
演奏そのものの良さはすぐに分かりました.
縦の揃いっぷりが,さすがのコンセルトヘボウ.指揮者とも息がぴったりで一体感がある.
管・打楽器パートも安定感があり,とにかく安心して聴ける.
ヤンソンスが主席指揮者になったのが2004年なので,このコンビでほぼ10年か.
もう阿吽の呼吸だね.中盤のトゥッティも綺麗に鳴り響いて,オケの力をいかんなく発揮.

ストラヴィンスキー: バレエ「火の鳥組曲 (1919年版)

アーティキュレーションが揃っていて,この曲の持つ怪しげな雰囲気も醸し出せていたが,いかんせんホールが鳴らない&響かない.
まるで,ステージが通常より数十メートル離れているかのよう.
オケ自身は結構鳴らして弾いてる感があるのに,耳に届く音量・響きは7割程度.何とももどかしい感触に悶々としていた.
文化会館はデッドらしいというようなことを聞いたことがあるけど,これほどまでとは...
1階後ろめの席で,場所も悪かったのかもしれない.奏者の問題ではなさそうなだけに,とても残念.


他に印象に残っているのは,ホルンソロがめちゃくちゃ上手かった点.
たった1人でスローテンポで延々と吹かなければならないのに,堂々と,かつ微かにヴィブラートをかけて聴かせる.
こういう名人芸が聴けるとは幸運だ.演奏後,拍手喝采なのも当然.

チャイコフスキー: 交響曲第5番 ホ短調 op.64

前述のホール特性のせいなのか,ここぞというところで鳴らないのはこの曲でも相変わらず.
その点さえ除けば,総じて安定感のある演奏.
ただ,とても気になったのが,楽譜に忠実に演奏しているんだけど,それ以上のメッセージ性が感じられなかった点.
超有名曲なので,コンセルトヘボウなら普通によい演奏ができるのはもはや当然で,
それ以上に音楽で訴えかけるものが必要だったと思うが,そうはならなかった.
いぶし銀のサウンドは健在ながら,それ以上でもそれ以下でもないような気がする.

ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン 2013

2013年はベルリン・フィルウィーン・フィル,コンセルトヘボウも相次いで来日し,
しかも来日時期が11月のほぼ同じ週になるという驚くべき事態が発生しました.
適当にチケットを買うとバッティングしてしまうので,カレンダーと演目を睨めっこしながら,チケットを買った覚えがあります.
さて,この3団体中トップバッターだったウィーン・フィル.今年はどうでしょうか.

ベートーヴェン: 交響曲第6番 へ長調 op.68 「田園」

いかにもウィーン・フィルらしいサウンド
角のないまろやかな響きで,あたかもオーケストラが1つの楽器のよう.
このレベルになると,もはやパート間のアンサンブルの出来云々などに言及するのも無意味な気がする.
ただ,意図的なものなのか分からないが,サウンドそのものがステージより前に出てこない.
前ではなく舞台上空の5メートルぐらいに,オケの音が渾然一体となって立ち上がる感じ.
ホールの隅々まで届く音では決して無かった.
これまでに行った公演でもそのような傾向にあって,今回だけという訳ではなさそうだけど,
そういうサウンドを目指しているのだろうか.


さて,指揮者ティーレマンも見ていたのだけど,どうもオケを掌握している感じがしない.
少なくとも,この日の演奏はティーレマンじゃなきゃ出来ない演奏とは言えないと思う.
このオーケストラの良さでもあり弱点でもあるのかもしれないけど,個性が強すぎて
この曲に対するイメージが既に出来上がってしまっているように感じる.
そうなると,もはや指揮者は曲の解釈に介入する余地はあまりなくなってしまうのかもしれない.

ベートーヴェン: 交響曲第7番 イ長調 op.92

こちらは出色の出来.
「田園」とは打って変わって,冒頭から張りつめた緊張感が漂う.
指揮者がステージに上がってから殆ど間を置かずにすぐに始まったのだが,終始テンションが高い状態.
テンポ設定や揺らぎも指揮者と一体になって,上手くコントロールできている.
ところどころで,まるでオケの音が飛び跳ねるような錯覚に陥るほどの軽やかなサウンド
やればできるじゃないか...このレベルの演奏が常にできれば素晴らしいのだが.


唯一,残念に感じたのが,木管が少し不安定だったところ.
奏者もどうにも吹きづらそうな雰囲気を醸し出していて,気持ち良さそうに吹けてない.
田園でもそうだったので,楽器の調子が悪かったのかな.


この日は皇太子様と森元首相が聴きに来ていました.
演奏前には元首相に次から次へと挨拶にセレブっぽい人たちが...何か別世界だなあ.

パリ管弦楽団 来日公演 2013

初めてパリ管弦楽団を聴いたのは,一昨年のことです.
その時のペトルーシュカのあまりの巧さに衝撃を受け,また来日することがあれば必ず行こうと決めていました.
そして2年ぶりに実現です!

シベリウス: 「カレリア」組曲 op.11

指揮者含めて前回と変わらぬクオリティ.とりわけ軽く演奏すべきところの軽快感がよく,まるで弾むよう.
ソロは華やかに吹かせつつ,それ以外は音色をピタッと揃えたアンサンブル.
不思議と穴となるパートがなく,縦もきっちり揃えることができている.
トランペットも簡単ではないと思うが,全く落ちる気配がないところがすごい.

リスト: ピアノ協奏曲第2番 イ長調 S.125

ピアノ・ソロはジャン=フレデリック・ヌーブルジェさん.見た目の印象ではすごく若そう.
そして,歩き方がちょっと変?ぎこちない感じが何だかまるで子供みたい.
表面的な話はともかく,音色は多少冷徹なところもあるとは言え抑制が効いていて聴きやすい.
難所も指がまわりまくりで,余裕で弾いているのが分かる.
チェロのソロもとても良かった.歌いどころのヴィブラートや音の減衰のさせ方に非の打ち所がない.
ソリストでも普通にやっていけるんじゃないのか,という位でびっくりした.


曲自体の印象ですが,全体的にとらえどころがなくて微妙なイメージが残る.
どうも聴き映えするところが少ないというか,主題以外は記憶に残りづらいなあ.
オケもピアノも上手なんだから,もっとベタな曲をやってもよかったのでは.

サン=サーンス: 交響曲第3番 ハ短調 op.78 「オルガン付き」

ああ,懐かしい.高校時代に吹奏楽のコンクールで演奏した曲です.当時はまともに吹けなかった思い出しかないのですが...


厳しいかもしれないけど,演奏はもう一歩,いや半歩欲しい出来.
メロディ以外の和音を作るパートがうまく響いてない時間帯が結構あったのが気になってしまった.
特に1楽章の冒頭は音楽の流れが続かない.3楽章は聴かせどころだけあって,最後に至るまでの盛り上げ方も良かっただけに惜しい.
前回のペトルーシュカ並みのインパクトではなかったが,全体的にはまあまあ.
このコンビは交響曲よりバレエ音楽のほうが得意なのかな.

パリ・ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団 来日公演 2013

去年の11月にいくつか演奏会に行ったのですが,時間が取れず放置してました...ほぼ3ヶ月遅れの更新になるとは.
さて,今回はオーケストラではなく吹奏楽.国内だと,海外の吹奏楽団を聴く機会は殆どありません.
CDなら海外盤を漁れば結構ありますが,生演奏は滅多にない.
そんな中,有名なギャルドが来日し,しかもディオニソスをやるとのことで,これは外せません.

ラヴェル: 道化師の朝の歌

ラヴェルの持つ軽やかでリズミカルな感じがよく出ています.
低音パートが鳴らしても全然重さがありません.
普通はハーモニーを重厚に組み立てがちですが,アプローチが違うのかそれでも全く貧相にならず.
奏者一人ひとりが上手なせいもあるかも.
ただ,ホールがまだ暖まってなかったのか,聞かせどころで響きが少し薄くなってしまったのが少し残念.

シュミット: ディオニソスの祭 op.62

個人的にはこの日一番の出来.
難曲なのにソロがブレない.細かいミスは挙げればいくつかあるけれど,安心して聴けるレベル.
終盤のパッセージがキツいところもきっちり吹けててスゴイ.
他に特徴的だと感じたのが,主題をトゥッティで鳴らすところでも力まず流してしまうところ.
日本のバンドだと「ここだ!!」とばかりにホールいっぱい鳴らしたりするので,身構えていたらあっさり...
言い換えると,酒の神がフラフラ〜っと酔っぱらってるような演奏,とでも言いましょうか.

デュカス: 魔法使いの弟子

pからmf辺りまでの細やかなアンサンブルが素晴らしいですね.
テンポが揺れてコントロールが難しいところも指揮者によくついていっています.
指揮者のブーランジェさん,ノリノリで少し暴走気味なのでは.
あえて一言言うなら,終盤に向けた盛り上げでカタルシスがあまり感じられなかったところが惜しい.

トマジ: トランペット協奏曲

トランペットソロは,エリック・オービエさん.
トランペットのソリストは詳しくないので,お名前は聞いたことありませんでしたが,好演でした.
音色が柔らかめだが,決してモワッとぼやけた音でもない.何とも絶妙なさじ加減.
また,奏者に挑戦的な曲なのか,全体的にハイトーンが多いのにも関わらず,余裕を残して吹いていました.
ミスらしいミスもなく,テクニックも確かです.
ミュートを3つ(?)使い分けて,素早く音色を変えるのもお手のもの.
トランペットのことなら何でもできるぜ,ってオーラが出ていましたね.


一方,ギャルドの方はどうかと言うと,正直あまり印象に残ってないというか,
ソリストの邪魔をしないように徹した感があって,これといった主張は感じられませんでした.

ラヴェル: 亡き王女のためのパヴァーヌ

この曲だけ編成が大きく異なり,木管群にホルン,ユーフォ,コントラバスを足した編成.
乱暴に言えば,木管アンサンブルのような形態だったのですが...
ラヴェル的音楽の特徴でもある靄がかった雰囲気は出ていたのですが,あまりにモヤッとし過ぎで正直イマイチ.
細部の仕上げが足りていないのかもしれません.
ソロはもっと歌っていい.旋律でタメるとこは,よりタメてほしかった.

ラヴェル: バレエ音楽「ダフニスとクロエ」 第2組曲

「夜明け」の冒頭は驚きましたね.
クラリネットが超忙しいパッセージをものともせず,ふわりとした感触を残したまま粛々と進んでいく.
中盤以降はちょっと緊張感が保てない瞬間も感じましたが,難曲であることも踏まえれば仕方ないでしょう.


演奏会全体を通じて感じたのは,奏者個人のテクニックは確かなのですが,パートごとに音が分離して飛んでくる傾向にあって,
バンドが一体となって音が混ざり合うような時間がとても少ないな,という点でした.
意図的にそうしてるのかよく分かりませんが...日本のバンドとは音作りが違うのかもしれません.

「きっと,うまくいく」を観ました


もう結構前になりますが,観てきました.
実は,別の映画を観たときにこの映画の予告編を観たのですが,いかにもお笑い映画って雰囲気で,
これは微妙だろとスルーしていました.
ところが親に「絶対観ろ」と言われ,半信半疑で映画館へ.
観た直後に体調を崩してしまってずっと感想を書けずにいたのですが,何とか更新.

「きっと,うまくいく」

インドのICE工大という極めて優秀な大学に所属する3人組の物語.
学生時代のドタバタと,あるいたずらによって10年後に集まることになった因縁を描く作品です.
舞台だけでなく制作もインドなので,欧米の映画とはひと味違うのも魅力の1つ.

観終わって

思ってたよりはるかに面白かったです.
未だにミニシアターで何ヶ月も上映が続いているのが納得できる出来.


特にツボだったのが,国は違えど工学系の大学生だった点.自分の大学時代を思い出しました.
自分は寮住まいではなかったし,こんなハチャメチャな生活ではなくて,もっとはるかに地味だったけど,
定期試験前に本気で必死だったのは同じだなあ.
工学部出身の人は授業風景とか懐かしい感じを受けるんじゃないかな.
あと,学生の置かれた立場が,落第なんてしていられない/就職もできるだけいいところ狙わないと...
などと,日本もインドも変わらず同じところも.


出演者については,主演の俳優が40歳前後らしいのですが,とてもそうとは思えない若さでびっくり.
見た目も動きも弾けっぷりがすごい.こういう大人はいいなあ.


この映画のメッセージの1つである"成功を追うな.優秀なら成功は付いてくる"が心に残りました.
ただ,実際そんなにうまくもいかないよね.
そもそも優秀じゃない奴はどうしろと,と映画を観ながら突っ込む俺.